外伝 一人の英雄のありふれたあってはならぬ一つの英雄譚───伝説の戦士、語られぬ数多の屍敷かれた戦場へ帰還す 第七話

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 速さ重視のタンザナイトスピーダーなら現場への急行および奇襲はわけない。軽量化とスピードアップの代償で防御力は下がるが、動きが制限される室内でもなければ問題ない。この形態にカウンターを決めてくる相手なんてアルくらいのものだ。

「頼む」

 背後の声に振り向く。血まみれの冒険家がそこにはいた。出血は派手だが、致命傷ではない。

「この街を、守ってくれ……!」

 嫌でも、他の冒険家たちの姿が目に入る。何人かは話したこともある。つい先日結婚した者、子を持った者だっている。

 皆もう、動かない。

「俺たち……命がけで……でも、もう」

「よくここまで戦ってくれた」

 集められる戦力、打てる手はすべて打った。皆、やれる限りのことはやった。怠慢も躊躇もなく、一生懸命に。

 誰が悪いわけでもない。

 いや。

 悪いのは――――

 俺はこちらを伺う襲撃者たちに目をやる。足元に転がる仲間に思うところでもあるのか――――いや、そこまで興味はないらしい。連中の興味は、介入した俺への一点と察する。

「なぜ奪う。なぜ殺す」

 俺は問うた。

 なにか大義名分が――やむにやまれぬ理由がひょっとしたらあったかもしれない。そんな疑問……せめてもの確認。

 何か重大な原因があれば、死んだ者もまだ浮かばれるかもしれない。

 そんな淡い期待。

 しかし返ってきたものは嘲笑であった。

『何言ってんだこいつ』

『オープンワールドで好き放題やってなにが悪いんだい』

『お前ら、NPCにわざわざマジレスしてんなよ』

 ゲラゲラと、まるで悪びれもせず連中は笑う。

 ――――『非現実感』

 総教皇。

 やはりこいつらは、あなたの読み通り……

 リーダー格らしき男が前に出た。

「まあここは一騎討ちといこう。そっちは多勢に無勢。ありがたいだろう?」

「構わん」

 俺としてはどちらでもよかったが、受けることにした。どうせこいつらは殲滅する。一人残らずイガウコから生きて帰さん。

「俺とお前で一対一、お前が勝てば聖十字騎士団は手を引く」

「そうか」

 どうでもいい。

 その男と俺を囲むように、他の騎士団員は円を作った。

「一騎討ちだぞ」

「ああそうか」

 はてしなくどうでもいい。

 男が剣を持つのに合わせて、俺もとりあえず剣を持ち上げる。馬鹿馬鹿しいことだが、連中にも騎士道精神があるのかもしれない。

「いざ尋常に――――勝負!」

 ――――少しでもそう思った俺が馬鹿だった。

「危ない!」

 冒険家の警告の声に振り向くまでもない。

 リーダー格らしき男の動きに合わせて、周りの騎士団員が俺に殺到した。

「聖十字騎士団流殺法秘奥義〈偉大なる磔刑グランド・クロス〉!」

 四方八方から飛んでくる刃。

 蜜にたかる虫のように俺へ突っ込んでいくそれらは、

 当然のごとく、

 全部へし折れた。

「なぜだ……」

 誰かがうめく。

「なぜ斬れない……」

 その問いに答えてやるいわれはない。

「異世界からの転移・転生……どちらでも興味はないが」

 俺はグレートソード振りかぶって一回転。

「異世界を舐めるなクソガキども」

 横から輪切りにされ、上下半分にされた面々を、新たに変化させた鎧で俺はつまらなく見下ろした。

 ヴァリエーション:ジェダイトスラッシャー。

 鎧は緑を帯び、剣戟けんげき用に特化している。胸部と肩部のアーマーがせり出すように巨大化し、より近接能力が増幅されている。剣を振り回す力はもとより、斬撃に対する耐性もまた絶大だ。そこいらのなまくらをザコが振るったところで、巨岩に小枝をぶつけるようなものだ。

『リーダーがまたやられたぞ!』

『あいつ本当に使えねえな!』

『近接メインなら遠距離でつぶしゃいいんだよ!』

 残りが俺から離れてわらわらと詠唱を始める。まあ、逃げずに立ち向かうだけマシか。追撃する手間が省ける。

「先に戻っていろ」

「へ」

 生き残った冒険家に簡単な回復魔法をかけて、事務局まで転移させた。

 これでよし。

 俺はあちらこちらで展開される術式を一瞥いちべつする。

 ヴァリッド・スタイルに――――この俺に死角はない。

「ヴァリアブル・ジュエル」

 鎧は薄く柔らかくなり、まるでローブのようになる。

『一〇人分の魔法だぞ!』

 ヴァリエーション:カーネリアンソーサラー。

『これで終わりだ!』

 魔法特化型の形態。これを貫けた魔法なんてない。

『このチート野郎が!』

 ……いや。

「もういい」

 数えるくらいはあった……かな。

「何も喋らなくていい」

 俺は剣を放り捨て、片手を残敵に向ける。

「ただ黙って死ね」

 まあいいや。

 ずいぶん昔のことだ。

 そんな昔話を振り返ることもあるまい。

 そんな昔話を語る相手も、もういないのだから。

「〈ファイエスト〉」

 連中を起点に数度の爆発。

 それで戦いは終わった。

第八話

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