速さ重視のタンザナイトスピーダーなら現場への急行および奇襲はわけない。軽量化とスピードアップの代償で防御力は下がるが、動きが制限される室内でもなければ問題ない。この形態にカウンターを決めてくる相手なんてアルくらいのものだ。
「頼む」
背後の声に振り向く。血まみれの冒険家がそこにはいた。出血は派手だが、致命傷ではない。
「この街を、守ってくれ……!」
嫌でも、他の冒険家たちの姿が目に入る。何人かは話したこともある。つい先日結婚した者、子を持った者だっている。
皆もう、動かない。
「俺たち……命がけで……でも、もう」
「よくここまで戦ってくれた」
集められる戦力、打てる手はすべて打った。皆、やれる限りのことはやった。怠慢も躊躇もなく、一生懸命に。
誰が悪いわけでもない。
いや。
悪いのは――――
俺はこちらを伺う襲撃者たちに目をやる。足元に転がる仲間に思うところでもあるのか――――いや、そこまで興味はないらしい。連中の興味は、介入した俺への一点と察する。
「なぜ奪う。なぜ殺す」
俺は問うた。
なにか大義名分が――やむにやまれぬ理由がひょっとしたらあったかもしれない。そんな疑問……せめてもの確認。
何か重大な原因があれば、死んだ者もまだ浮かばれるかもしれない。
そんな淡い期待。
しかし返ってきたものは嘲笑であった。
『何言ってんだこいつ』
『オープンワールドで好き放題やってなにが悪いんだい』
『お前ら、NPCにわざわざマジレスしてんなよ』
ゲラゲラと、まるで悪びれもせず連中は笑う。
――――『非現実感』
総教皇。
やはりこいつらは、あなたの読み通り……
リーダー格らしき男が前に出た。
「まあここは一騎討ちといこう。そっちは多勢に無勢。ありがたいだろう?」
「構わん」
俺としてはどちらでもよかったが、受けることにした。どうせこいつらは殲滅する。一人残らずイガウコから生きて帰さん。
「俺とお前で一対一、お前が勝てば聖十字騎士団は手を引く」
「そうか」
どうでもいい。
その男と俺を囲むように、他の騎士団員は円を作った。
「一騎討ちだぞ」
「ああそうか」
はてしなくどうでもいい。
男が剣を持つのに合わせて、俺もとりあえず剣を持ち上げる。馬鹿馬鹿しいことだが、連中にも騎士道精神があるのかもしれない。
「いざ尋常に――――勝負!」
――――少しでもそう思った俺が馬鹿だった。
「危ない!」
冒険家の警告の声に振り向くまでもない。
リーダー格らしき男の動きに合わせて、周りの騎士団員が俺に殺到した。
「聖十字騎士団流殺法秘奥義〈偉大なる磔刑〉!」
四方八方から飛んでくる刃。
蜜にたかる虫のように俺へ突っ込んでいくそれらは、
当然のごとく、
全部へし折れた。
「なぜだ……」
誰かがうめく。
「なぜ斬れない……」
その問いに答えてやるいわれはない。
「異世界からの転移・転生……どちらでも興味はないが」
俺はグレートソード振りかぶって一回転。
「異世界を舐めるなクソガキども」
横から輪切りにされ、上下半分にされた面々を、新たに変化させた鎧で俺はつまらなく見下ろした。
ヴァリエーション:ジェダイトスラッシャー。
鎧は緑を帯び、剣戟用に特化している。胸部と肩部のアーマーがせり出すように巨大化し、より近接能力が増幅されている。剣を振り回す力はもとより、斬撃に対する耐性もまた絶大だ。そこいらのなまくらをザコが振るったところで、巨岩に小枝をぶつけるようなものだ。
『リーダーがまたやられたぞ!』
『あいつ本当に使えねえな!』
『近接メインなら遠距離でつぶしゃいいんだよ!』
残りが俺から離れてわらわらと詠唱を始める。まあ、逃げずに立ち向かうだけマシか。追撃する手間が省ける。
「先に戻っていろ」
「へ」
生き残った冒険家に簡単な回復魔法をかけて、事務局まで転移させた。
これでよし。
俺はあちらこちらで展開される術式を一瞥する。
ヴァリッド・スタイルに――――この俺に死角はない。
「ヴァリアブル・ジュエル」
鎧は薄く柔らかくなり、まるでローブのようになる。
『一〇人分の魔法だぞ!』
ヴァリエーション:カーネリアンソーサラー。
『これで終わりだ!』
魔法特化型の形態。これを貫けた魔法なんてない。
『このチート野郎が!』
……いや。
「もういい」
数えるくらいはあった……かな。
「何も喋らなくていい」
俺は剣を放り捨て、片手を残敵に向ける。
「ただ黙って死ね」
まあいいや。
ずいぶん昔のことだ。
そんな昔話を振り返ることもあるまい。
そんな昔話を語る相手も、もういないのだから。
「〈ファイエスト〉」
連中を起点に数度の爆発。
それで戦いは終わった。
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